【FXライター高城のFXで稼ぐ方法は勝者に訊け!】石塚彰人さん(その3) 外国為替市場の「通説」を疑う
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今週も先週に引き続き、石塚彰人さんについてです。
⇒石塚彰人さん(その1)歴史は韻を踏むだけ
⇒石塚彰人さん(その2)茶髪・ロン毛のディーラーは誰?
⇒石塚彰人さん(その3) 外国為替市場の「通説」を疑う
⇒石塚彰人さん(その4)大手ヘッジファンドが気にしていたこと
■1人が市場を動かすことは可能か?
外資系金融機関で活躍してきた石塚彰人さんの目に外国為替市場はどう映るのだろうか。
「外国為替市場の特異性は分散型であり『取引所集中』ではないということ。株や先物であれば東証やNY証券取引所、シカゴのCMEなど具体的な取引所がありますが、外国為替市場にそういった場所はなく、世界中で行なわれている銀行と銀行、銀行と顧客との個々の相対取引の集合体が市場。P2P的でありブロックチェーン的で中央集権的には管理できないのです」
外国為替市場は個々の取引の集合体であるため、正確な出来高すらわからないし、全体像を把握することが難しい。
「そのため西原宏一さんや私がディーリングルームにいた時代には、一部のディーラーが相場の流れを生み出すことは可能でした。シティバンクは大口顧客との為替取引も多く、ディーラーの裁量も大きかったですから、タイミングを選んで何百本(1本=百万ドル相当)と売りを仕掛けると、『何があったのか?』と市場がざわめき立ち、多数の短期売買プレイヤーが追随して売る、なんてこともありました。もちろん短期プレイヤーはある程度下がったところで買い戻しますが、時としてそのような動きがその後も続く一つのトレンドを形成したりもしました」
■「1日6兆ドル」の出来高を疑う
ただ、電子取引が中心となった現在では、こうしたトレンド形成は難しくなっているという。
「為替取引が電子化されたことで、ディーラーの権限もかなり減らされ、自分の裁量で仕掛けたりする騙し合いのような取引は難しくなりました。注文がすべて右から左、左から右へと流され、かつては為替ディーラーが作っていた『ため』がなくなっているので、自分の裁量でまとまった金額を動かす機会も極端に減っています。その結果、見た目の流動性は格段によくなっていますが、本当にそうなのだろうか、と」
商社がA銀行と10本の取引を行なうと、A銀行はB銀行でカバーし、B銀行はC銀行でカバーし――これで出来高は30本になる。もともとのオーダーは10本に過ぎない。
「現在の外国為替市場は1日6兆ドルの出来高があると言われますが、結局は同じ取引がぐるぐる循環している部分も少なくないはずです。出来高が増えているといっても電子化により循環回数が増えただけなのかもしれません。」
「それだけ出来高があるのならいつでも注文が約定する」との思い込みも危険だ。
「大手銀行のプライス提示が止まれば、ネットワークの末端の方までプライスが枯渇するリスクだってあるはずです。私たちは外国為替市場とその豊かな流動性が当然『そこにあるもの』として参加していますが、その正体は意外と謎に包まれているのです」
■為替市場は本当に「ゼロサム」なのか?
外国為替市場では、買い手はいずれ必ず売って決済するし、売り手もいずれ買い戻して決済するため、大きく動きにくいと言われる。だが、この「通説」にも石塚さんは疑問を呈する。
「海外直接投資のフローや決済のために外貨を調達する貿易会社、あるいは為替ヘッジをかけないファンドなどは長期で買いっぱなし、売りっぱなしですし、決済を前提としない片道取引がメインの顧客はPL(売買損益)の認識が低いので、そういう参加者がいることにより、明らかに方向感は生まれるし、為替市場がゼロサムゲーム(損益の合計がゼロとなるゲーム)であることがわかりにくくなっていると思います」
石塚さんがゴールドマン・サックス時代にはPLの認識が低い顧客がいたという。
「あるアメリカ企業が日本子会社の株式を売却して得た円資金を米ドルにして本国送金したことがあります。米ドル/円で500本規模の買い取引を実行したときも、顧客が為替レートを気にしている様子はありませんでした。子会社の資本金として投資した資金が数百倍、数千倍にもなっていれば、多少の為替変動による損益の増減には大きな関心がなかったのかもしれません」
今も国境をまたいだ大型のM&Aがあると注目されるのは、こうした資金が為替を動かす可能性があるためだ。
「そもそも『為替市場の正体は?』と考えていくのも面白いと思いますよ。最近話題になっている暗号通貨やCBDC(中央銀行デジタル通貨)の今後を占う上でも、それは役に立つはずです。そんなことを考えていると、眠れなくなりますが(笑)」
石塚彰人さん(その4)へ続く。
石塚彰人さんのコラムは全4回となっています。
⇒石塚彰人さん(その1)歴史は韻を踏むだけ
⇒石塚彰人さん(その2)茶髪・ロン毛のディーラーは誰?
⇒石塚彰人さん(その3) 外国為替市場の「通説」を疑う
⇒石塚彰人さん(その4)大手ヘッジファンドが気にしていたこと
【プロフィール】
石塚彰人さん
大学卒業後、日本における新卒採用1期生としてゴールドマン・サックスへ入社。1991年から約10年シティバンクで為替、デリバティブ、債券のディーラー。その後はマーケットから離れ、複数企業でCFOとして経営に携わった。直近では東京スター銀行執行役などを務める。シティバンク時代には西原宏一さんや田代岳さん、和田仁志さんなど錚々たるメンバーと机を並べる。現在も個人投資家としてファンダメンタルズ分析を中心にFXを取引する。